「双仮面」(横溝正史)

本作品は様々な点で二つの顔を持っている

「双仮面」(横溝正史)角川文庫

富豪・雨宮万造の所有する、
巨大なダイヤを設えた
黄金の模造船。
それを狙う怪盗・風流騎士から
犯行予告が届く。
屋敷の内外を固めた
警察官を尻目に、
風流騎士はいつの間にか
邸内に忍び込み、
万造を殺害し、
ダイヤを奪っていった…。

一瞬、これは少年向け
推理ジュブナイルか?と
思ってしまいました。
希少な財宝、
犯行予告、
変装による侵入、
まさに怪人二十面相の世界です。
しかし、所有者を殺害してまで
財宝を奪い取る手口は
スマートではありません。
実は表題「双仮面」が示すとおり、
本作品は様々な点で
二つの顔を持っているのです。

本作品の二つの顔①
主要人物の善悪が「双仮面」

風流騎士は万造の孫・恭助に
変装します。
しかし、この恭助も至る場面で
怪しい挙動が見られるのです。
風流騎士と恭助は明らかに別人であり、
同一人物ではありません。
風流騎士と恭助、
どちらが善でどちらが悪か、
またはどちらも悪なのか。
判断がつかない「双仮面」です。

本作品の二つの顔②
ヒロインの性格が「双仮面」

本作品を彩るのは
万造の孫娘・千晶です。
21歳の才色兼備の女性なのですが、
それでいて事件に
積極的に関わろうとします。
ピストルを狙い撃つ場面もあります
(なぜか射撃には自信があるという)。
また、千晶の感情は
激しく揺れ動きます。
従兄の恭助にも
疑いの視線を向けるし、
怪しいアリ王子には
親近の情を見せるのです。
何でもできる性格と揺れ動く感情。
理解の難しい「双仮面」です。

本作品の二つの顔③
作品設定が「双仮面」

冒頭に記したように、
殺人事件が起きている一方で、
物語はあたかも少年探偵団ばりの
推理ジュブナイルの様相で
展開していきます。
大人のミステリーなのか、
それとも子ども向けなのか。
判別に戸惑う「双仮面」です。

これは作者・横溝が
巧妙に仕掛けた罠であり、
それぞれどちらが本当の顔なのか、
分からない仕組みになっているのです。
終末部分でやっとその意味が
解き明かされます。
そしてめでたしめでたしと思いきや、
最後の最後には、
再び大どんでん返しが
待ち構えています。

名探偵は由利麟太郎ですが、
本作品は
いつもの相棒・三津木俊介は登場せず、
変わって金田一耕助シリーズで
おなじみの等々力警部が
サポートします(単なる引き立て役に
過ぎませんが)。
これもある意味「双仮面」です。

(2019.3.17)

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